「お久しぶりです、雨鳥さん」
 マスターの名前を口にして、白髪の少女はタオルを受け取った。

「わたしのこと、わかりますか?」

「もちろん。三年ぶりだね」と雨鳥は微笑んだ。

「体──大丈夫なの?」
「はい。このとおり、もう一人で歩けるようになりました」

「そうか、おめでとう。ご注文は?」

 雨鳥はニヤリとする。
「まさか、雨宿りだけで注文ナシ、なんてのは許さないよ?」

「では、コーヒーを」

 そう言った少女に、雨鳥はへえ、と眉を跳ね上げた。

「苦いのは嫌いなんじゃなかったのかな」

 その少女──無色は、少しムッとしたように目を細めた。

「嫌いじゃありません。苦手なだけで」