俺も元は軍隊にいた人間だ。狙撃のことは多少は知ってるし、仲間にスナイパーもいた。だからわかるが、7.62mm弾で1000m級の狙撃というのは、弾丸の持つ運動エネルギーから言って、ギリギリ当てられるか当てられないかの限界距離だ。
だがディルクはさらに付け加える。
「『最低』1000mだ。後に判明した事例で、1200mの距離から狙撃されていたイギリスの議員がいた。しかも一発で脳天を撃ち抜かれている。当然即死だ。本人は自分が死んだことにすら気づかなかっただろうな」
「で」
俺は気になっていた質問をぶつけてみた。
「お前と王、どっちが上なんだ?」
ディルクは一考した後、
「鷹の爪は銀の弾丸ではない」
「?」
「いずれわかるさ」
それきりディルクは何も言わなかった。
これ以上話すこともなさそうなので、
「あかり。王の居場所は?」
「最後の目撃情報はニューヨークになってる」
「よし。なら明日、朝イチでニューヨークに向かうぞ。今日はもう引き上げよう」
「わかった」
「おっけー」
俺達は席を立ち、予約しておいた近くのホテルへと向かった。
あかりの皿を片づけるウェイター達が、ひどく迷惑そうな顔をしていた。