お前は1発で仕留めることにこだわり過ぎた。仲間を連れず独りで行動し、己の腕を過信し、連射に不向きなボルトアクションで『次弾要らず』を貫いた。ボルトアクションは故障も少ねえし、信頼性も高いが、それが有効なのは2発目をバックアップしてくれる仲間がいるときだけだ。
一方ディルクは、一発必中にはこだわらねえ。俺達仲間を信頼し、腕を過信せずセミオートを使い、時には捨て弾を撃って弾道を補正し、『確実に仕留める』ことにこだわる。
だからお前は負けたんだ」
「そうか……。さっきの1発目……」
王は絞り出すようにして言葉をつむぐ。
ディルクは1発目を撃った後すぐさま場所を移動し、次に王が撃ってきた方角から位置を割り出し、2発目で仕留めたのだ。
だから俺に『動くな』と言ったのだ。王を『動かさない』ために。
それなりに出血はしているが、急所は外れている。病院へ連れて行けば、死ぬことはないだろう。
「そうだ。だから――」
俺は銃を構え直し、
「大人しく俺達の生活費になれ」
それを聞いた王は顔を伏せ、苦笑を浮かべ、
「ふっ……生活費か……」
「ああ。ここ数日、ちょっと無駄遣いしちまってな。それにお前をパクるのに、色々と投資した分もあるんでね」
と、王は俺の方へ向き直り、
「君達の生活費になるのも、投資分を回収するのに一役買うのもまっぴらだ」
止める間もなかった。王は残った力を振り絞り、ダイバーが船から海へ飛び込む時のように、壁を飛び越え背中から裏路地へと落ちていった。
「くそっ!」
慌てて路地を覗き込むが、そこには王はおろか野良猫1匹見当たらない。見事に逃げられちまった。
「そうじゃねえだろ。普通ここは、カッコ良く大人しく捕まるとこだろ。これだから空気読めねえチャイニーズは……」
でかいため息を一つつく。インカムから『ちょっとー。どおなってるかガチで見えないんですけどー』などと聞こえてきた。