『そうだ。現に、今まで同じような警戒態勢をしいていた各国要人が、ことごとく暗殺されているのだからな』
「そりゃそうだけど……」
「言ってるうちにご到着だぜ」
道路をはさんでセントラルパークに面した高級ホテル。そのエントランスに、ちょうどウィリスの乗ったセダンも含め、計4台の車が着いたところだった。
俺達はホテルから少し離れた、セントラルパーク側の道端にバイクを止める。
まずセダンの助手席と3台の護衛車から1人ずつ、4人の男たちが出てきた。
2人がセダンの後部ドアの周りをかため、残る2人がさらにその周りを警戒しながら、無線で何事か連絡を取り合う。
俺は双眼鏡で、ぐるりと周囲を見回した。
確かに、ホテルを囲む全てのビルの屋上に、何やら人影がうごめいている。おそらくニューヨーク市警やらFBIやらの連中だろう。狙撃できそうなポイントは、全て事前におさえてあるようだ。
護衛連中が周囲を警戒しながら、セダンのドアを開ける。中からウィリスが出てきた。
調べた限りじゃ年齢45歳。カミさんとジュニアハイの息子が2人いる。
金髪。瞳の色はブルー。身長6フィートの細身の男だ。なかなかのハンサムと言っても良いだろう。
なるほど、確かに一種のカリスマ性は感じる。実際、議会でもかなりの発言力を持っているようだし、次期大統領候補とまで言われているそうだ。狙われるのもわかる気がする。
周りを4人の男にがっちり囲まれ、ウィリスはゆっくりとホテルの入口へと近づく。
時間にしてほんの数秒なのだが、この数秒がやたら長く感じる。
やがてホテルの入口上に設けてあるアーチの下に入り、ドアボーイがドアを開けた。
どうやら、今日は何も起こらなかったようだ。そう思った刹那――
 
びしゃっ!
 
液体をぶちまけるような音がして、ウィリスは左へ弾けるように倒れた。
『なっ……!』
俺とあかりの驚愕の声が重なる。護衛達が騒ぎ始め、一番近くに付いていた男たちが周囲にP90とグロックのマズルを向けながら、頭から血を流してぐったりしているウィリスをホテルの中へと担ぎこむ。
ビルの上から警戒していたチームも一斉に動き始めた。サーチライトで辺りを照らしながら、何やら怒鳴りあっている。
あかりが傍受している無線でも、怒声が響き渡っているようだ。