「マジでー?」
「マジマジ。それより、君どこに住んでんの?」
「渋センマック」
「ウケる! おもしれー!」
「おにーさんは?」
「俺バーキン」
「うわ。めっちゃパクられた」
何やら会話が盛り上がっているようだ。会話の半分は俺には理解できないが。
ちなみに俺は、男から死角になる席に座っている。あまりガン見しないようにちらちら見る程度。だが会話だけはしっかり聞いている。
「ところで、誰かと一緒じゃないの?」
「ううん。一人旅」
「危なくね? 女の子一人で」
「ちょー余裕」
言って、ジュースをズルズルやる。
それから二人はしばらく会話を続けた。やがて日が西へ傾き始めた頃、二人は席を立ち、ビーチを出てストリートを歩き始めた。
俺は耳に入れたインカムに向かって『相棒』に呼びかける。
「オニカマスから鷹へ。ソネが完食した。事務所へ入る。繰り返す。ソネが完食した。事務所へ入る」
『鷹、了解』
相棒の返答を確認してから俺も席を立ち、二人の後を追った。
夕暮れ間近のマイアミのビーチ沿い。女を良い気分にさせるには、絶好のロケーションとシチュエーションだ。実際女の方は男と腕を組んで歩いている。はたから見れば、バカンスにやってきた東洋人のカップルにしか見えない。
インカムから二人の会話が聞こえてくる。とりあえず会話は弾んでいるようだ。
やがて二人は立ち止まる。あまり人気のない場所だ。女が誘い文句を男に囁き、男の腕を引っ張って脇の路地へと入って行った。
俺はインカムのPTTボタンを押し、
「鷹へ。ソネが肉を事務所へ持ち込んだ。繰り返す。ソネが肉を持ち込んだ」
『了解。こちらからも確認した』
周囲から怪しまれぬよう、そして不自然にならぬように、俺は路地へと近づく。
今まで何度もやってきたようなことだ。緊張も気負いも何もない。ただいつも通り、やるべきことをこなすだけだ。
路地へと近づくと、やがて話し声が聞こえてきた。
「えーマジ? ここでー?」
「ここでって、そっちが誘ったんだろ? 強引に引っ張りこんだくせに」
「てかあたしそこまでカルくないしー。パパに怒られるー」
なんだか棒読みだ。