むくれたあかりを俺がなだめる。
「どうせ本格的な捜査は明日からのつもりだったんだ。今夜はニューヨークの大人の夜を満喫しても良いじゃないか」
言った途端、二人が不気味なものを見るような目でこっちを見てきた。あかりはともかく、ディルクがこんな極端な表情をするのは珍しい。
「な、なんだよ……」
ちょっと気圧され、聞いてみる。
「い、いや、何と言うか……。ジルがそんな情緒的なセリフを吐くとは……」
「鬼キモ!!」
「やかましいわ!!」
こいつら、俺のことなんだと思っていやがる。俺だって、スカしたセリフの一つや二つ言えるわい。
カクテルを一口飲んで、気を落ち着ける。
「ま、それよりもだ」
「あ、話逸らした」
「うるせー。
捜査は明日からっつったが、一応アタリくらいつけとかねえと捜査のしようがねえよな。
あかり。王の個人情報から、なんかわかんねえか?」
「それがさー」
いつものタブレットを取り出しながら言う。毎度毎度思うことだが、こいつはどこからこれを取り出してるんだ?
「船の上でもずっと調べてたんだけど、なんも出ないんだよねー。足取りも金の動きもガチでさっぱり。ネット中探ったけど、マジ白紙系なんだわ、こいつの情報(ソース)
「さすが、7000万ともなると簡単にはいかねえか。ディルクはなんか知らねえか?」
ディルクはグラスをテーブルの水滴の輪の上に正確に戻し、
「僕があと知っているのは、やつが愛用している武器くらいだ」
「なんだ?」
「アキュラシー・インターナショナルのL96A1」
「ボルトアクションか」
「そうだ。やつは古いタイプのスナイパーで、1発で仕留めることにこだわる。『次弾要らず』を貫いているようだ」
「チャイニーズのくせにイギリス製か。対西側ってツラは、ホントに表向きだけなんだな」
「その通りだ」
あかりは興味なさそうにボーっと俺達の会話を聞きながら、ジュースをすすっている。こいつは銃火器には興味ないらしい。全然覚えようともしない。この商売を続けていくつもりなら、少しは覚えてもらいたいもんなんだが。
「そもそも、なんで王の野郎はニューヨークに来たんだ? もっとも、その情報が正しければの話だが」