「てか、おにーさんおにーさん。ここ空いてる系?」
ビーチに面した一軒のオープンカフェ。なかなか良い雰囲気の店だ。南国風の造りで、店のスタッフもそれに合わせたファッション。メニューもトロピカルなものが多い。
そんな店の一角。ビーチに最も近い列のテーブルの一つに、男が一人で座っていた。
東洋人。俺たち欧米人にはほとんど見分けはつかないが、正確には日本人だ。茶髪、というより金髪に近い色に染めた髪。よく日焼けした肌。短パンのような水着に、上半身は裸。左腕にダイバーズウォッチ。おそらくはタグ・ホイヤーだ。両耳にピアスをしている。そして年齢は22歳。
その男に、ビキニを着た女が声をかけている。こちらは色白で茶髪のセミロング、さんさんと太陽の光が降り注ぐビーチには似つかわしくない、ピンクのフレームのメガネをかけているティーンネイジャー。メガネと合わせたのかどうかは知らないが、水着もフリル付きのピンクだ。
「あ、ああ。空いてる空いてる。もぉ全然空いてるし」
「んぢゃ、相席よろー」
だらしなく笑みを浮かべながら隣のイスを引いた男に促されるまま、女は席についた。
男はテーブルの上のモスコミュールをどかし、女はそこへ自分が持っていたジュースを置いた。何のジュースかはわからないが、グラスの縁にやたらとフルーツが突き刺さっている。
「君、日本人でしょ? 奇遇だよね。ここって日本人少ないからさあ。なんか嬉しいよ」
「あたしもー。もぉ少し日本人いるかと思ったけど、ガチで全然いないからさー。席も見つかんなくて、ちょーテンパってたから。マジホント助かったわ」
言って、女はジュースに口をつける。男もモスコミュールを一口飲んだ。
「てか可愛いねー君」
偶然の出会いをモノにしようとしたのか、男はナンパモードに入ったようだ。とりあえず見た目を褒めるのは、基本中の基本だ。
「それちょー言われるー。てか褒めてもなんも出ねーし」
「あはは。はっきり言うね」
「おにーさんもイケメンぢゃね?」
「お、マジで? そんなん言われたことねーよ」
「嘘ばっか。ナンパ上手そうだし、年中食いまくってんぢゃね?」
「んなことないって全然。俺モテねーし」