「………俺には、帰るところがない」
「親は」
「居ない」
「居ない?」
「親父はずっと前に出て行った。母さんは……あいつは最近出て行った」
「…………お前、今までどこで」
「マンションで一人」
「だから倒れたのか」
「……多分」
その人は深く溜息をついて、「ったくよ、最近の親はどうかしてるぞ」と呟いた。
「名前は?」
「……橘 晴斗」
「晴斗か。お前、ここで働け」
「………は?」
「住むとこねぇんだろ」
「…そうですけど」
「だったら話は早い。うちに来い」
「いや俺、まだ学生だし」
「いくつだ?」
「16」
「はっ、16で働く奴なんかたっくさん居るぞ」
…………良い、のか。
まあ、そうだな。
住むところ無いし。
とりあえずは、この人の元で。
「……よろしくお願いします」
「おう。あ、俺の名前は伊吹 宏之な」
「………伊吹、さん」
「よそよそしいな。ひろで良いよ」
「ひろさん」
「ああ。よろしくな、ハル」
この日から俺は、「晴斗」から「ハル」になった───。
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