帰りの電車で、悠亜さんの携帯が鳴った。



「もしもし?お母さん?」


悠亜さんは小声で電話に出た。



私と隆介は息を飲んだ。


もしかして…何か

わかったんじゃないかって。




「うん。うん…わかった。」


悠亜さんの声のトーンで、期待は消えた。



「美亜ちゃん、ごめんね。電話したらしいんだけど、番号変わってたって…」


悠亜さんは申し訳なさそうな顔をした。



「なぁ、ゆうちゃん…俺の母さんのことで何か覚えてることある?」


隆介は、窓の外をじっと眺めながら呟くように言った。



しばらく沈黙が続いた後、悠亜さんが言った。


「隆ちゃんの…お母さん、ナポリタンが上手だったよね。よく作ってくれた。具がたくさん入ってて…」


隆介は、何も答えずに瞬きもせずにどこかを見てた。


きっと、

過去の風景。



ナポリタンを作るお母さんの背中。


振り向いて、隆介にナポリタンを渡す笑顔。