どれくらい歩いただろう。 青紫の闇が訪れた頃には、虫も木々も早くも寝静まっているようだった。 遠く、もう戻る事の無いあのマンションが闇に浮かび、その向こうに東京タワーが飾りを付けている。 「母さん…‥あそこに座ろうか」 手を取りながら、土手の階段を一歩一歩降りる。 辺りに人の気配は無かった。