又兵衛はゆっくり片目も開いて、今度は顔全体を僕に向ける。


「いい処だぜ。保孝の世界みたいに、あくせくして無くて、のんびりした世界さ」


僕はユーフォニュームを膝に置いて又兵衛を覗き込んだ。


又兵衛は再び目を閉じて腕を組み直すと自慢げに自分の世界を語り出した。


「俺の世界はな。精神世界なのさ」


「精神世界?」


「ああ、そうだ、心が支配する世界の事さ。人間はそいつを理想郷って呼んでるのを知ってるか」


又兵衛の問いに、僕はゆっくり頭を振って見せた。


「そうだな、保孝には、まだ難しいかも知れないな。いいか、人間てのは、昔から理想郷って言う奴を探し求めて来たんだ。わかるか?」