「…大丈夫…だと思います…」
藍は、握られた手が少々痛いと思いながら答えた。
「そうよねぇ。藍君、君気に入ったわ」
そう言って、皐月は綺麗に笑った。
満足したせいか、藍の握られていた手は解放された。
藍は心の中でそっと溜息をついた。
木蓮はというと、どうでもよさげというように黙々とお茶を飲み、仕事があるからと行ってしまった。
「えーっと…この家の説明だったわよねぇ…その前に藍君、キミ中学生よね?」
「はい…中学3年です」
「制服のポケットに入ってた生徒手帳を見せてもらったわ。家出だったりするのかしら?」
「………………」
皐月の真剣な目に、藍は目をそらしたくて俯いた。
答えたくなかった。
思い出したくなかった。
ざわめきたちが近付いてくる。
何かが責め立てる。
「答えたくないなら、無理に答えなくてもいいわ。でもね、あなたの家の人が捜索願いをだしたら、あたしたちみんなが迷惑するの」
皐月の口調は変わらなかったが、声音は最初より幾分か低い。


