体の痛みで目が覚めた。どんなに疲れていたとしても、変な姿勢で、それも“リストランテ ボンボヤージュに向かう”の固い椅子で、眠り続けるには限界がある。
アイワイは首を押さえながら、もそっと起きた。
「リーグ・・・君・・・?」
もう戻ってきていると思って、名前を呼んでみた。しかし、まだリーグは戻ってきていない。誰もいない車内で、名前を呼んでしまった自分に妙な恥ずかしさを覚えた。
「まだ、戻って来てないのか・・・。」
これは恥ずかしさをごまかす為だけに言った。
「なんか体中痛いし、ちょっと様子を見にいってみようかな。」
これは体が痛くてしょうがない自分に対する言葉だ。さっきの一言が、よほど恥ずかしかったのだろう。ごまかそうとする彼女の言動は、そこはかとなくぎこちない。
アイワイは言った通り、“リストランテ ボンボヤージュに向かう”を降りた。いつもならこんな事はないのに、今日に限って降りる時に足をひねった。
どうにも、ぎこちない事だらけだ。

矢印が大きく、ハッキリとした。これは目標が近くにいる事を示している。
辺りにいるのは、馬車から降りてきた女だけだ。自ずと目標は決まった。
「どうやら、あいつらしいね。」
「でへっ。きれいだ。」
「どこがきれいなんだい?あれ、前にもこんな話したね・・・。」
「なんでもいいや。殺せれば。」
「相変わらず、変態だよ。こいつは・・・。あれ、これも前に・・・。」
都会の活気にあてられたのか、女の様子はいつもと違った。瞳にはショーウィンドウにあるドレスが映っている。気持ちはそっちに向いていた。

ゆっくりと、相手に気づかれないように近づく。
ゆっくり、ゆっくり。
しかし、ねねは朱ずくめ、れれは黒ずくめ、どんなに目立たないようにしていても、周りに誰も見あたらないこの状況下では、見つけないようにする方が難しい。
案の定、アイワイも気がついた。

<なんか、すごい格好・・・。>
自分では絶対に着ない洋服に、視線を奪われた。知らず知らずのうちに、目で追っていた。すると、朱ずくめの女と目が合った。
慌てて視線を逸らす。