『‥え? どういうことだよ』

今にも泣きそうな顔で、女の子は光る水面を見た。

『いまは‥なにもいえない』

『言えないって‥!』

『でもね、もしまたあえたらそのときは‥―――』



いのちを、もらうから。



『は? 殺すってイミ?』

『ううん、そうじゃなくてね』

いのちをもらうかわりに、
わたしのいのちはセレスにあげる。
それで、ずっとしぬまでいっしょにいるの。

『それが、イミ』

『よく分からねぇんだけど』

『だよね。それでいいよ。いまぜんぶしられたら、ぜんぶがだいなしになっちゃうから』

『ますますイミ分からん』

俺は遠くを見ながら、少し頬を膨らませた。
女の子の手が、俺の手に絡んだ。
ふと見下げると、俺の手は傷だらけで。

『セレス、むこうにもどったらね、セレスはきっと、すべてをなくしてしまう。なにもわからなくなる』

『‥何を失くすんだ?』

『タイセツなモノ』

『何が分からなくなるんだ』

『タイセツな、モノ』

ぎゅっと女の子の手に力が入って
俺は女の子を見た。
目には大粒の涙が。
今にも零れ落ちそうだった。

『それでも、わたしがきっとみつけるから。わたしがぜったいにまもるから』
だから、たとえなにをなくしてしまっても
わたしをまっていて。
『ぜったいに、みつけるから』

そう言って女の子は、俺に一つキスをした。

『これね、ヒトのあいじょうひょうげん、なんだって』

笑った女の子の目から、一粒の涙が落ちた。
そして、俺たちは2人で水面に飛び込む。

最後に、女の子は言った。



ほんとうにいいたかったことはね
ぜんぶがおわったら、いうから。

だから、わたしをまっていて。