これが、俺の過去。



これが、チャロの過去。






ずっとずっと忘れていた。
絶対に忘れちゃいけないことを。



それから気が付いたら、俺は街にいた。
熱い雲の下、降る雨に身震いして、行く宛てもなく歩いていた。
何となくポケットに手を突っ込むと、イヤリングが入っていて。
反対にはチャロ石の欠片が入っていて。
それで、頭の中には何も入ってなかった。

記憶が、ない。
昨日が思い出せない。
一昨日も、その前も、またその前も。

混乱して座り込んだところに、爺さんが来たんだ。
傘を俺に差し出して。
酷く悲しそうな顔をした爺さんが、俺を抱きしめた。
爺さんが誰なのか分からなかったけど、

昨日が分からない不安からか。
此処がどこなのか分からないからか。
親の顔も浮かばないせいか。
傷も何も無い綺麗な手で顔を隠して、俺は泣いたんだ。

何かを失ったという、大きな失望感だけがあって
でもその失くしたものが何なのか分からなくて。
本当、何もかも分からなくて。

正面に見える暗い路地で、短い灰色の髪をした女の子を見ながら。
その子も雨に濡れているせいか、悲しそうだった。
手にはその子には大きい紫の石を持っていて。
その子は俺と一度目を合わせると何処かへ行ってしまう。

『‥ごめんなさい』

そう、口が動いた気がした。
その後爺さんに連れられて、俺は治安署で生活した。
自分が誰から生まれて、何処から来たか分からなかったけど
爺さんは俺を何不自由なく育ててくれたから、

いつの間にか、不安は何処かへ消え去って。
もう、何も分からないままでもいいと思っていた。
でも‥、思い出した。



ずっとずっと忘れていた。
絶対に忘れちゃいけないことを。