目が覚めた。
 正確には少し違う、『目を開けた』だ。
 結局、寝付けなかったからそうなる。
 今日は特別な日。
 ……面倒な日。
 起き上がって教会に行く仕度をする。
 …黒いのにしよう。
 耳飾りは目が覚めるようなブルーがいい。
 靴も黒。
 帽子も黒。
 髪も目も黒。
 黒づくめで家を出た。
 教会はすぐ目と鼻の先。
 小さな小さな教会。
 軋む扉をゆっくり開いて閉じる。
 簡単な話。
 懺悔室の戸を叩く。
 返事を待って、中に入った。
 神に伝える。
 正確には神父様に。
 自分の罪と、あなたが何も出来無い旨を。
 神であるあなたは何も出来無いと言う旨を。
 それでも自分を許すと口にする神。
 いいや違う。
 あなたは許しなどくれない。
 正確には何もくれない。
 どんなに身を削っても、何もくれない。
 いや、出来無い。
 何も与える事など、出来無いのだ。
 懺悔室を出る。
 嘘つきは死んで終え。
 家に帰ると、何かが弾けるような音と揺れを感じた。
 リビングでくつろぐ父と母と祖母に、心配無いと伝える。
 真紅に染め直した絨毯は、このリビングに良くあう。
 三人とも微動だにせず、ラジオに夢中みたいだ。
 自分も座る。
 とても楽しそうに口を開けたままの父を見ていると、笑みが零れた。
 母は口に包丁を咥えて曲芸まがい。
 祖母なんかは、自分の内臓を観察している。
 はぁ……。
 面倒も済んだし。
 ああ……
 今日も平和だ。