『…お前には分からない。』
「はあっ?」
『お前には分からないって言ったんだよ。
脳天気そうななお前の頭じゃ、俺の苦しみなんか理解出来ないんだろうな…って思っただけだ。』
「ケンカ売ってんのかお前!」
『俺が売ってるのは歌声だけ。
あいにく、お前に聞かせる歌声は無いけどな。』
「んだと、テメー!!」
そう言ってガキが俺に殴りかかってきた。
俺は抵抗もせず、殴られ続けた。
─その後「消えちまえ」の言葉を残し、ガキは居なくなった。
俺は誰も居なくなった路地裏で大の字に寝転んだ。
『…痛っ…』
殴られた衝撃で、口の中を切ったらしい。
起き上がると、無残な姿になったギターを拾いケースにしまった。
最後のかけらまで拾うと、俺の手の中に収まっていたピックをポケットに押し込んだ。
『無事なのはピックだけか…』
ケースを担ぎ、暗くなった路地を街灯の明かりを避け歩いた。
(不幸って続くんだよな。)
昔からよく聞く言葉の通り、不幸は続いた。
俺が家に帰るとそこには誰もいなかった。
テーブルの上に一枚の紙を見つけた時、妙な胸騒ぎがした。


