「…歌うことは好きです。
でも、この声は好きじゃない。
僕の声は商売道具じゃない。 僕の声は…」


そう言って、俯く琉歌の目には涙が溢れていた。


『俺も歌うことは好きだそして、このギターは商売道具じゃない。』


黙ったまま何も言わない琉歌に、父さんに言われた事を自分の言葉に変えて言った。


『俺は歌と引き換えに自信を失った。
笑顔を得る変わりに汚い言葉を吐き捨てられた。
確かに、ギターは商売道具じゃない。
歌うことも商売道具じゃない。

恥ずべき事でも
強制的に唄うものでもましてや弾くものでもない。
俺達は、希望を売ってるんだ。
歌いたい時に、好きな歌を奏で、それを売って生きてる。』


聞き手がいて、歌い手がいるから成り立つ仕事。
そのことに初めて気がついた。
父さんはこのことを僕に教えようとしていたんだろうか?


「僕の両親は、僕の歌声を売ったりはしなかった。
僕をとても大切に育ててくれた。」


琉歌は突然話し始めた。
琉歌も僕と同じなんだろうか?
違う。きっと僕より琉歌の方が笑っていたはずだ。