へたくそなギター弾き

─また月が隠れた。
誰もいない森の中、僕の声だけが木霊する。
だから気づかなかったんだ。


誰かが居たことに。


『~~♪~…』


ザワザワと木々が揺れる森の中で、僕はまだ同じ歌を唄っていた。
こんなに気持ちいと思ったのは初めてだった。



─カサッ


微かに聞こえた音に、手が止まった。


『…誰だ』


我に変えると、予想以上に低く冷たい声が出て、自分で驚いた。


「…ごめんなさい!」


そう言って草村から出てきたのは、幼顔の男の子だった。
どこから来たんだろう?
いつからいた…
俺は不思議な程に、その男の子が気になった。


『ずっといたのか?』


「…はい。」


『どこから来た?』


「街の方から…」


見るからに、幼いこの少年は俺が登って来た方を指差し、怯えた顔で俺を見た。


『親は、知ってるのか?』


少年は首を振った。


「僕には、心配してくれるような親なんかいないから。」


俯いた顔は切なげで、なぜか綺麗で…理由を聞くのをためらう程だった。


『…そうか。名前は?』


「琉歌(りゅうか)」


『(りゅうか?)変わった名前だな、俺はりょう。』