「いえ、違いますよ。彼女らはもっと小さいですから」
彼女“ら”って何?
複数ってどういうことよ。
再度、耕太を見上げてみるけど、頭は前を向いたまま。
教える気がないのか、今は聞くなってことなのか、どっちなんだか分からないじゃない。
………教えてくれる気なんて、さらさらないとは思うけど。
「悪かったねぇ。……ああ、そうか。耕太くんのコレかい?」
すまなそうにしながらも目を細めて微笑むマスターは、どこか楽しそう。
そりゃあ、自分の小指を立ててるくらいだもの。
「それも違いますよ。彼女――梨海さんは、アルバイトなんです」
あ。今、『梨海さん』って言ったわよね?
耕太曰く『TPOを考えろ』ってことで、カイさんの前以外では言葉遣いに気を付けろ、とのこと。
「そうだったのか」
「それでですね。今度から、彼女が豆を買いに来ますので、顔、覚えて下さい」
「分かったよ。豆の種類は今までと同じで………」
紙も何も見ずに、マスターの口から出てきたカタカナに驚いて、コーヒー豆の種類名なんて耳に入ってこなかった。
唯一、耳に入ってきたなと思うのは、『ブレンド』と『ストレート』。

