ラスト プリンス



「いらっしゃい。……おや、初めて見る顔だね」

 あたしを迎えてくれたのは、少し太めの中年男性。

 店内は外観と同じくアンティークのテーブルやイスにカウンター、そしてピアノを基調としたジャズ音楽。

「久しぶりですね、マスター」

 軽く会釈をするあたしの後ろから聞こえてきた、無理やり優しさを詰め込んだ柔らかい低い声。

「相変わらず男前だねぇ、耕太くん」

「マスターには負けますよ」

 はっはっは、と笑い飛ばすマスターを見ながら微笑む耕太は、慣れからなのか引きつってはいなかった。

「それで? 隣のお嬢さんは……片割れかい?」

 ……片割れ?

 聞いたことのない言葉に心の中で反芻し、隣に並んでいた耕太を見上げる。

 どういう意味?と視線だけで訴えて見るものの、耕太はあたしのことなんてちらりとも見ない。