「半年前くらいにバイクで事故ってさ。最初は頭部外傷後のストレスかららしいんだけど。まあ、煙草吸ってるからなあ」
「え?」
「俺、一人暮らしで結構外食とかファーストフードが多いからすぐには気付かなかったんだ。でも今は前よりは良くなってるし、亜鉛欠乏症も若干あるけど……まあ平気」
心因性味覚障害? 味覚障害……。
「あーだからか。あんな苦いコーヒーを普通に飲んでたのは」
滅茶苦茶濃く入れたコーヒーを、なんのリアクションもなく飲んだのはそういう理由か……。
そういえばその時『耕太の舌はバカなんだよ』ってカイさん言ってたな。
「え? じゃあ、カイさんも味覚障害なの?」
確かにあの時、耕太はカイさんに『てめえに言われたくねー』って言ってたよねえ?
「ん?ああ、あれは別物。 どんなにまずいって言われてる食べ物でもカイは『美味い』って言うんだよ」
ふぅん、と納得しているあたしの手はいつの間にか耕太の頬から滑り落ちていて。
それをぎゅっと掴んだ耕太は「梨海」と呟きながら顔を近付ける。

