ラスト プリンス


「はあ。また泣いてる」

「…………っ」

「オジサンは嫌か?」

 ブンブンと首を横に振るあたしの額は耕太によって、その男らしい胸板に押しつけられた。

 「そうじゃなくてっ」と必死に言葉を探すけど、そのどれもが声にならない。

「言えよ。気になる」

「………あたし、やっぱり、罰ゲームしなきゃダメなの……?」

「当たり前だろ。俺、お前に勝って、その後カイに言われて気付いたんだからよ」

「…………は?」

 ぐっと胸を押して耕太を覗き込めば、相変わらず何を考えてるのか分からない瞳。

 でも、この瞳が好き。

 冷たいんだけど温かくて、怖いんだけど優しいこの瞳が。

「梨海」

 その大好きな瞳に見つめられて、低く耳に、心に、じわりとくる声に頬を緩ませる。

 今、この時だけの幸せを噛み締めよう。

 それだけで十分。

「“まだ”泣くな。話すに話せない」

「まだ? まだあるの?」

 ああ、と小さく頷いた耕太はあたしの頭を撫でる。

「これが一番驚くかもな」

「サバ読んでたこと以上なの?あたし、これ以上にないってくらい驚いたのに」

 大げさに肩を竦めるあたしに耕太は乾いた笑い声を上げ、「そうだな」と呟いた。

 「一番驚くことってなあに?」と、いつもより優しい耕太にむず痒さを感じながら問う。