◇◇◇

「それじゃ苦しいだろ」

 そう言って飛んできたのは、灰色のスウェット。

 帯の締め付けた感覚はすでに慣れてしまっているから、苦しいなど思わないが、耕太の前で着物を着ているとなると話は別。

 どうして、普段の服より恥ずかしいのだろう。

 手元にあるスウェットに視線を落とし、耕太にしてはサイズが小さいことに気付いた。

「ありがと。 ……ねぇ、このスウェットって……」

 もしかして、元カノとかのだったりして、と悪い予想をしていたあたしに降ってきた「ああ」は、どっち?

 リビングに面しているドアは二つあって、左右に別れていて。

 その右側のドアからすたすたと壁の向こう側へ消えて行った耕太を見ようと、動けば対面キッチンに入っていったと分かった。

 いまだリビングの入り口にたたずむあたしは、じっと部屋を見入ってしまう。

 耕太らしいと言ってしまえば一言で片付くけど、グレーのラグに背の低い黒いソファー、それに合わすように長方形のテーブル。
 まさかのまさかで、カーテンも黒。

「早く着替えろよ」

 キッチンから飛んできた言葉に、ゆっくりと移動してカウンターに手を置いた。