………あ。 そういえば。
 なんだっけ、あの変な男……元カレ、か? そいつにボロクソ言われて泣きじゃくって、家に電話掛けたとき。

 泣きっ面で家に帰りたくない、って思うのは分かるけど。

 うつらうつらで聞こえてきた梨海の声は『お母様にはそう伝えておいてもらえません?』だった。

 今の時代に『お母様』なんて呼ぶ奴がいないとは限らない。 でも、梨海の身なりからしたら不思議すぎる。

 言葉遣いから、声色から、話し方まで何もかもが違った。

 言うなれば、“大和撫子”のような気がする。 目を瞑っていればだが。

 親がしつけに厳しいとしても違和感を感じる。 なら、よく昼ドラとかに出てきそうな、由緒正しい家柄のお嬢様、とか?

 だとすれば、何となく繋がる気はする。 でも、納得したくねぇな。

 どっちが、ホンモノ、か。

 まだ、分からない。 由緒正しい家柄さながらの性格か、ぎゃあぎゃあうるせぇ性格なのか。

「カイ。 梨海の親ってなにやってんの?」

「え? なんで、またいきなり」

「お前なら知ってるだろ。 一応、社長だし」

「なんだと思う?」

 コーヒーの入ったマグカップに口を付けながら、カイのデスクまで移動する。