◇◇◇

 相変わらず、代わり映えのない毎日は味気もなく、ただ、コーヒーの香りに包まれる社長室でキーボードを叩く。

 ………ただ。

 “何一つ”変わらないわけじゃない。 “ほとんど”変わってないだけ。

 まあ。それには、梨海がBELLを辞めたことも入ってる、一応。

 梨海が泣きながら俺に告白してきた日のこと、不思議なことに夢に出てくる。

 夢に出てくる理由なんて分からないし、気分が悪くなることもない。

 だけど、ムカつく。

 『なんでもない』を繰り返し、まるで中学生のように頬を上気させ呟いた言葉に。

 あいつらしくないことなんて薄らと分かっていたけど、だからこそ、もやもやが取れない。

 言いたいことだけ言って、俺の膝から飛び降り、社長室を出ていった小さな背中を、俺は見ることは出来なかった。


『―――好き』


 今でも頭ん中で繰り返されるこの言葉。 賭けに“勝った”という意味で嬉しいとは思った。

 だけど、納得できねぇんだよなぁ。

 俺に言わずに、心の奥底にその気持ちを秘めていれば、近くにいることが出来たはず。