ラスト プリンス



 りんごの甘さとほどよい酸っぱさが口の中で広がる。

 ストローから口を離し、うーん、と体を伸ばし、再びジュースを胃に落とす。

「体調が良いなら、ちょっと付き合え」

「どこに?」

「あそこ」

 耕太が指差した場所は『FLOWER SHOP Kaede』という、大きくも小さくもない花屋さん。

 ああ……そっか。今日、ユキさんの誕生日なんだもんね。

 気付かないフリを決め込んだのは良いものの、ぎしぎしと悲鳴を上げる心を無視出来るほど、あたしはそんなに寛大じゃない。

 それでも、花はあたしの得意分野だし。

「うん。行く」

 一気にリンゴジュースを飲み終えたあたしは、ゆっくりと車から降りて、お店へ向かう。

 店内は可愛らしいつくりになっていて、甘く爽やかなみずみずしい花の香りで充満している。

「いらっしゃいませ」

 柔らかく何かの花を思い浮べるような声に釣られて、花からその人に視線を遣れば。

「井上くんっ」

「七瀬さん、こんにちは」

 このお店にピッタリなほど、爽やかな顔立ちの井上くんが、さらに爽やかな笑顔浮かべていた。