ラスト プリンス



 じわりと。心の奥の、うんと奥が温かくなって、泣きたくなる。

「……ごめんなさい。車酔いしちゃったから、買い物お願い出来る?」

「………めんどくさい」

 さっきより、眼を優しくした耕太が呟いた。

「はいはい。行きますよ」

 別に車酔いしたわけでもないし、ただ、少しの時間だけでも耕太と離れたかったの。

 車から降りようと体を左に傾けたはずなのに、あたしの体は右に倒れた。

「………いい。俺が行く」

 どこから取り出したのか、あたしにブランケットをご丁寧に投げつけ、「おとなしく寝てろ」と言い残し、車から降りていった。

 ………ムカつく。

 投げつけられたこともそうだけど、何だかんだあたしの代わりに行ってくれたところとか、変な優しさとか。

 どんどんどんどん。
 自分が堕ちていく気がして、イヤ。

 まだ。まだ、自覚したくないのよ。 この気持ちにだけは。

 それに、耕太には彼女がいるかもしれないことだし、今すぐに自覚する必要はないと思うの。

 ただ、逃げていたい。

 気付きたくもないし、気付かれたくもないのよ。

 態度に出なければ、きっと、気付かれないと思うの。だから、気付きたくない……。

 自分の気持ちから、立場から、迫りくる猶予から。

 まだ、逃げていたいの!