「このお店。僕で3代目なんだ」
「じゃあ、お祖父様の時から?」
「ううん。僕の父さんが初代なんだ。 僕が産まれる前に事故で。……飛び出した小学生を助けようとしたらしくてね。 で、2代目は母さん。 両親は僕と同じくデザイナーだったから」
産まれる前にってことはお父さんの記憶なんて全然……って思わせないくらいの優しい微笑みを浮かべるカイさん。
どうしてなんだろう。
まるで生前のお父さんを知ってるみたいに話すのは。
「父さんが死んだ後、母さんがこの店を継いだんだけど、その時の母さんの右腕が耕太のお母さんなんだ。 だからなのかな? 耕太が僕以外の誰かがここで、デザイナーとして働くのを嫌がるのは」
別に僕はデザイナーが増えるのはいいんだけどね、と苦笑し冷めて酸味が強くなったであろうコーヒーを一口飲んだ。
「………耕太は守りたいんですね。 ご両親の想いの詰まったこのBELLをカイさん以外の誰かの色に染まってほしくないから……」
「梨海ちゃん………」
一瞬目を見開いたカイさんはふんわり笑って、ありがとう、と。
そして、再びコーヒーを飲み始めたカイさんが「……ああ、そうそう」と何かを思い出したように、さらに優しい微笑みを口元に浮かべた。
「言い忘れてたんだけど、耕太が誰かをクビにする時、その子を使ってもらえる所を紹介してるんだ。 『ここで自分の夢を諦めてほしくない』って言ってたよ」
「………っ」
なに、それ……。
自分の所為で、もしかしたら才能のある人を埋めたくないから?
違う。 そうじゃない。
自分の所為になるのが嫌だからじゃなくてっ。
「……もしかして、耕太が辞め易いようにしてる……?」
あたしが小さく呟いた言葉に、隣で「その通り」と肯定された。

