ラスト プリンス



 ドアを開けるとそこには黒のグランドピアノと、大きな本棚。本棚には楽譜とか、あたしが見ても分からないような専門書みたいなのもあるみたい。

 ピアノの上に置いてある楽譜を片付けている優衣は、ふわふわしている白いワンピースを着ていた。

「おはよう、梨海ちゃん」

「寝すぎちゃったわ」

「ホントだ。もうお昼………あ、彩織ちゃんに花束頼まれたんだぁ」

 あたしが持っていた花束を見て、そう口元を綻ばせた優衣はなんだか嬉しそう。

 詳しく聞けば、彩織さんの誕生日に好きな人からもらったんだとか。

「ねぇ、優衣ぃ。あれ、弾いてっ」

「うんっ」

 ぱあっと咲いた花のように笑い、ピアノの前に座った優衣は、黒と白の舞台に指を踊らせた。

 部屋いっぱいに広がるのは、『乙女の祈り』。
 弾む音を聞きながら、花瓶にガーベラを生けていく。

「わあ! 可愛いっ」

 いつの間にか途切れた演奏は、優衣のはしゃいだ声に変わり、あたしの目の前で瞳をキラキラさせていた。

 それを持ってリビングに戻り、彩織さんに見せれば、目を大きくし「最高!」と一言。