ラスト プリンス



「どうしたのっ。梨海ちゃっ――」

「キィーーッ。なんなのよっ、もうっ」

 もし、あの時耕太が来なかったら、あたしは言われっぱなしで言い返すことも出来ず、家に帰ってからボロボロだったに違いない。

 それを予想して耕太が言い返して、その上、たくさん泣かせてくれたとしたら。

 優しさが分かりにくいってどういう性格してんのよっ。

「はあ。梨海ちゃん、落ち着いた?」

「ゼンゼン」

 バタンとベッドに倒れこみ、腕を顔に乗せて、何回かため息をつく。

「あっ。今、思い出したんだけどね。今日、私の家まで送ってくれた人って誰? 顔はよく見えなかったんだけど……」

「藤野耕太。……ああ、言うの忘れてたわ。バイトしてること」

 ええっ、と驚いた声とベッドの軋む音が響き、腕を退かせば、真正面に優衣のドアップ。

 ………もし、あたしがソッチの人なら絶対襲ってるわ。

 空いているほうへ体を転がし、一旦うつ伏せになってから起き上がった。