ラスト プリンス



「……ん? 体調悪いか?」

「………っ!」

 どうして、そう、不必要な時に優しいのよっ。

 金曜日の夕方によく現われるヒーローとその仲間たちのダブルパンチ並に、心臓に悪いわ!

 ドキドキ、バクバク、ドクドク………なんか、もう死んじゃいそうな気がする。

「……へ、いき……」

「脈、早いけど」

 いやぁあああっ!

 七瀬梨海、最大の不覚よっ。
 左手首を掴まれたままなのを忘れるなんてぇーっ!!

 ばっと耕太の手を振りほどき、「大丈夫だから」となるべく落ち着いた感じに言うのが精一杯だった。

 だいぶ心臓のパニックが治まってきたころ、耕太の黒塗りの車に……助手席ではなく後部座席に乗り込んだ。

 これは、習慣って言ってもいいわ。
 車に乗るときは必ず後部座席、ひとりの時は運転席の対角線。 二人の時は人によるけど、あたしより権限がある人――例えばお母さんとなら、お母さんが運転席の対角線上。

 運転手がその人の様子が一番分かりやすいように、だと思うけど。

 信号に引っ掛かり、エンジン音に震える車内には、薄ら洋楽がかかっている。