ラスト プリンス



 一度、大失敗というなの最悪な恋愛から、苦手意識が強いのだけど、そういう輩から一線張ってるのも事実。

 もちろん、恋愛感情なしで、うっとりするような女うけの良いルックスを持つ男友達ならいるわ。

 ふと、カイさんにコーヒー入れなきゃ、と思い静かに立ち上がる。

 そういえば、仕事サボっちゃったな、なんていまだけだるい頭でぼんやり考えた。 途端、パシンと乾いた音が響いた。

「おい」

 音の原因は、耕太があたしの手首を掴んだから。

 それにしても、いつ起きたのよ。

「おはよー」

 耕太の言いたいことは分かってるけど、別に後ろめたいことがないため、軽い調子で答えた。

「おはよー、じゃねぇよ。なに、脱走しようとしてんの」

「脱走だなんて人聞き悪いじゃないっ。 そんなつもりで立ち上がったわけじゃないんですけどーっ」

「子猿なんだから“脱走”で合ってるんだよ、バーカ」

 こいつ本当に寝てたのか、疑いたくなるほどの耕太は、腕時計を一瞥した。

 その腕を軽く前に振って胸元に寄せて時計を見る姿に、心臓が高鳴ったなんて、知らないふりよ。