「無理なら無理って言ってね? ……今夜泊まってもいい?」
最後の方は優衣にしか聞こえないように小さな声で囁いた。
『いいよっ。彩織ちゃんと楽しみに待ってるねっ』
「ありがとう、優衣っ」
優衣の弾んだ音が耳に残る中、耕太をちらりと見れば、仕事の疲れかうとうとしている。
ほんの少しだけ、それが可愛く見えて口元が緩んだのは、耕太には内緒。
それから、優衣の家に泊まることになったのを知らせるため、家に電話を掛けなげればならない。
耕太をじっと見て、うたた寝していることを確認して、発信ボタンを押した。
『はい、七瀬でございます』
きっちりかっちりした声が頭に響くのを感じながら、口を開く。
「梨海です」
『お嬢様でございましたか。栗橋でございます。 奥様がお嬢様のお帰りをお待ちしていますよ』
「ええ……。そのことなんだけど、今日は優衣の所に泊まることになってるの。 お母様にはそう伝えていただけません?」
目の前の耕太を起こさないよう、ゆっくり丁寧にお手伝いさんの栗橋さんに伝える。

