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 ふわふわとした感覚の中、ほっぺが上に引っ張られた。

 しかも、痛い。

 ほっぺを吊り上げる物体を、軽く叩いてみたものの、離してくれる気がないのか、さらに力を強める。

「………いひゃい」

 痛みに顔を歪ませ、目を開けると、そこには見慣れたテーブルにソファー。

「早く起きろ」

 上から冷たい声が聞こえて、顔を上げれば、あたしのほっぺを摘んだままの耕太の姿。

 ぺしんっと軽い音を響かせながら、耕太の手を叩きキッと下から睨み上げる。

「痛いじゃない」

「起きないお前が悪い」

 当たり前だ、と言わんばかりのその口調は、寝起きだとしても頭にきた。

 起こし方っていうのがあるでしょ、と言うつもりで口を開いたのに、あたしはすぐ唇を噛み締め頭を下げた。

 だって、そんなことあたし、言えないじゃない。

 もちろん、今までだって数えきれないほど泣いてきたけど、男の前であんなにないたのは初めてよ。

 言い返すことも、耕太を睨み上げることも出来ないあたしは、静かに起き上がった。