だが彩の心は複雑だ。


ふつうの物語では、王と結ばれ幸せになるのがセオリー。


必ず、娘つまりこの場合は彩が王に惚れる。


今の彩はそんな気配はない、まず仲良くもないのだ。

どころか味方するはずの、栄達らが意地悪なのだ。


シンデレラ、美女と野獣、名だたる物語りの最後は王子様と結ばれてハッピーエンドだ。



そこには政治的策略もハレムも、側室も裏も存在しない。
イジメられていた娘が、王子様に見初められて、結婚する。
そこに重臣の反対など、聞いたことがない。

「無理だよ…帰りたい」

ぽつりと呟いた声は、風に消され誰の耳にも入らない。


「月妃、辛くないか?」

強風が顔に当たる、その事を気遣う白夜。


「どうか、お気になさらずに」

白夜の部屋に直通の、獣場に妖獣を預ける、彩は白夜が脇に手を入れ下ろした。


白夜が触れるだけで、ひどく怯える彩を、目を細め沈痛な面持ちで見つめる。



悲しそうに。


「ありがとうございます」

そう礼を言うと、女官達に連れられ湯場に行く。


そして、服を剥かれて薄布一枚着せられ、ヒノキの湯につかる。


このお風呂は第一妃と、子を成した側室しか使えない事になっているらしい。


湯につかると、メイドさんは一人だけ付く事になる、これは名誉な事らしい。


「あ……!翠翠ちゃん」

―すいすいちゃんだ


茶色の大きな瞳がさらに大きく見開かれ、今にも泣き出しそうになる。


「な…なかないで!」

お湯を零しながら、近づくとその場に泣き崩れる。


「月妃さまに覚えていただいていただなんて」

感激の涙を流す。


そこでピンと来る。


「翠翠ちゃん!」

「どうか翠翠と…」

「翠翠、あなたご両親は…?」

「地方の小役人ですが…」
(よし、第一条件クリア!)


「どんな方…?」

「おっとりと優しい父です」

(よし!!)

「陛下は好き!?」

「お、恐れ多いです!」

「ね、今日から私に付いてね!翠翠」

(側室にぴったり!妻と畳は若い方がいい!)



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