予想もしない展開と驚きで意識を手放した桜は額に乗せられた冷たさで目を覚ました。
「・・・ん。」
「目が覚めたか?」
「ここは?」
「俺の屋敷だが。」
「すみません、迷惑をかけてしまって。すぐに帰りますんで。」
「・・・どこに帰ると言うんだ?」
「え・・・?」
着物を着た青年に助けられたと思い込んだ桜は体に冷たいものが流れるのを感じた。
目の前にいる青年の背には黒い羽は生えていないし、ここは自分が居た世界だと思い込んでいたのだから。

「ここは俺達、妖(あやかし)の世界。お前はこの世界に生きるんだ。」
「嘘っ、返してっ、私をパパとママの所に返してっ。」
「悪いが出来ない。」
布団に顔を押し付けて泣きじゃくる桜をおいて青年は部屋を出て行った。
後ろ手に襖を閉めた青年が苦しそうに自分の腕を顔に押し付けていたのを知る者はいないだろう。

どのくらい泣き続けたのか、桜自身分からなくなっていた頃、トントンと太股を叩かれているのに気づいた。
目を向ければ小さな金色の狐が一匹、そこに居た。
「き、つね?」
「コン。」
「迷ったの?」
まるで、桜の言葉が分かるかのように子狐は首を振った。
桜の太股に陣取っていた子狐はそこを退くと空中で青い炎とまといながら1回転して見せた。
身軽に音も立てずに着地したのは金髪の男の子。
年は6歳くらいだろうか。
「ぼくは、心(しん)。妖狐(ようこ)なんだ。よろしくね。」
「・・・」
「お姉ちゃん?」
「あ。ごめんね、私は桜。よろしくね。」
「泣かないで。お姉ちゃんはお姫様だから帰れないけど。ぼくたちがいるから、泣かないで?」
「シンくん・・・」
「桜っっ!!!」
バンっと襖が開けられた。
血相を変えた青年が額に汗を滲ませ、そこに立っていた。