風が止み、目を閉じていた桜達が目を開くとそこには、
片膝を付き、頭を垂れ、両手を頭まで掲げた女人の姿。

髪は高い位置で結い上げられ、緑がかった黒、
長い睫毛の奥には紅い瞳。

「蓮、朱?」
「はい」

聞こえて来たの声は高いけれど
女人にしては低い気がした。

「今までの仮の姿、大変失礼しました。これが私の真の姿でございます。」

顔を上げたそれは切れ目ながらも柔らかい目に奥にまがまがしい紅を持ち、目鼻立ちが整い、麗人と呼ぶに等しい姿をしていた。

「お前、男なのか?」
しばらく黙っていた慧が口を開いた。
「はい。」
「今まで、人型にならなかったのは何故だ?」
「ならなかったのではなく、なれなかったのです。」
「呪いの類か…」
「まさに。」


そのとき、バタバタと廊下を走る音が聴こえたかと思うと、スパーンっと勢いよく襖が開いた。

「神流(かんな)っ!!」
「っ…、沙…羅(さら)姫…」

神流と呼ばれたのは蓮朱、
そして、沙羅と呼ばれたのは慧の姉である燐。
一体どうなっているのか…

「ごめんね、神流、私は沙羅じゃないわ、今は当主の姉、燐よ。」
「そうでしたか…。」
「私は貴方を置いて逝ってしまった、だけど一度だって忘れたことはないのよ。」
「私こそ。」

目の前で繰り広げられる熱い抱擁に桜は真っ赤に染まり、ただ、ことを見守るしかなかった。