「凄くなどない…、お前を傷付ける存在だ。」
搾り出すように慧は言った。
慧の腕を枕にしていた桜は、
そんな慧に顔を向けた。
「そんなことない。だって、慧さんの力は私を助けてくれたじゃない。」
寝起きで、掠れる声で桜は言う。
不意に手が頬に伸ばされ指の腹で撫でられる。
絡み合う視線、ふっと柔らかくなる赤い瞳。

「桜…」
「ぁ…」

近づく優しい瞳にそっと目を閉じる。
唇に優しく触れる体温。
妖だって、自分と同じ。
トクンと高鳴る胸に桜は自分が恋をしたことに気付いた。

ゆっくり離れる体温。
目を開ければ、今、自覚した恋の相手。
だんだんと赤く染まる顔。

「もう少しだけ、このまま。いいか?」
「う、うん。」

返事と同時に腰を引かれ、距離が縮まる。
抱えられるように慧の腕に閉じ込められ、桜は温もりとくすぐったいような暖かい気持ちに誘われまた目を閉じた。

慧もまた、腕にある温もりと安心感で目を閉じた。