花が咲く頃にいた君と

「十夜の、十夜の優しい目が好き。あの部屋でお母さんの面影を追いかける、あの眼差しが好き」

「うん」

「けどその後に、悲しい目になるのは、嫌。十夜が悲しそうにするのは見たくない」


「うん」

「昔は寂しかったの。十夜はあたしを、大事にしてくれてたけど、いっつも構ってもらえなかったから、寂しくて寂しくて、あんな家出て行きたいと思ってた」

「悪かった」



十夜はあたしの隣に座り、握り締めたあたしの手に自分の手を重ねた。



「十夜もっとお母さんの話、…聞きたい」

「あぁ、これからはもっと聞かせてやる。ごめんな、ずっと寂しい思いさせて」


十夜に頭を引き寄せられて、あたしは自分からその胸の中に飛び込んだ。


十夜に抱き締められたのなんて、いつ以来だろう。




きっと小学校低学年以来だ。




「…出ていこう。別にあの人のこと忘れる訳じゃない。ただ俺はまだ生きてるから、結女とのこれからの方が大切なんだ。

だからいつまでも、優香さんの面影を、追ってるわけにはいかねぇ。あそこに居たら、いつまでもこの状況から抜け出せないから、だから引っ越そう」

「うん」



あたしは小さく頷く。