花が咲く頃にいた君と

「それじゃ失礼するよ」

俺たちしか居なくなった廊下に、コツンコツンと品の良い男の靴音だけが響いた。



結局、殴り飛ばすことも、言い返すことも、出来なかった。



“弱者”確かに、小夜はそうだから。


しかし、あんな男に、小夜の無限の可能性を、その“価値”を否定してほしくない。



あんな、何もかも計算して、見透かした様な男に、俺は負けたくないと思った。



「お前なんかに負けない。何もかも、俺のものにしてやる」



奴が一度、“弱者”になって見ればいい。


俺に全てを奪われて、着るものも、食べるものも、無くなってしまうほどに落ちればいい。



そして解らしてやる。
“弱者”はなりたくてなるものじゃないことを。


「全部、奪ってやる」



静かな廊下、小さく呟く。


噛み締めた奥歯、ギュッと音が鳴る。



反響することもなく、言葉は消えた。