花が咲く頃にいた君と

頬に張り付く髪

衣夜さんが払いのけてくれた。



「大丈夫、です」

「怖い夢でも見たのかな?」

「わかりません」



夢の内容はあまり覚えていない。


その終わりに見た、あの強い瞳が印象的で



内容が薄れてしまった。



「きっと熱のせいだね」

「熱?」

「ふゆちゃん倒れたの覚えてない?」

「あー、なんとなく」

「高熱があったんだよ。やっぱりあの雨の中に居たせいだね」


衣夜さんは優しく笑って、あたしの頭を撫でた。



「でもビックリした」


衣夜さんはあたしから離れ、部屋の隅にある冷蔵庫へと向かった。



「ある日突然、バイト辞めちゃって」

「あれは…」

“くびになっちゃって!”


笑い話にすればいいのに、それが出来ない。




脳裏にチラつく十夜や下宮比さん、東向日の笑顔。



泣き叫びたい衝動に駆られた。




けどそうしないのは、あたしのプライドの問題。



「俺さふゆちゃんに会えなくなって気付いたことがある」




衣夜さんはあたしにペットボトルの冷たい水を差し出してくれた。



おさまらない震えを、何とか抑え込もうとしながら、水を受け取った。