その夜、食事に呼ばれ階下へ向かうと、悠さんと義父が既に席についていた。




こんなこと、この家に世話になり始めてから初めての事だった。












『…珍しいですね。この時間に家におられるのは』



「明日の式典についての打ち合わせを兼ねて話がある。食事ついでに済ませようと思ってな」









明日。


明日の私は、どうなっているのだろうか。













「…菜穂、今ならまだ引き返すことも」



「悠」



「…っ」










なにか言いかけた悠さんの言葉を遮り、厳しい声が部屋に響いた。














「菜穂。お前をここまで世話してやったのは私だ。その恩を忘れるな。五十嵐の名前に泥がつくような真似は…分かっているな?」



『…はい』












…それは分かってる。



自由を手放して手に入れたのは充分な教養、教育。



失ったものは、私自身。



どっちが幸せだったんだろうか。










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