捺「…」
一方的に切られた電話に何度も何度も掛け直すが聞こえてくるのは無機質な電子音ばかり。
どうしたらいい?
自分が家に戻りさえすれば、あいつを救えると思い込んでいた。
今、あいつが何をされているのか。
あかん、部屋で悠長に携帯と睨み合いしてる暇と違う。
捺「こんな障害があるとはな…」
このままだと、あかん。
破談にされたら、意味が無い。
あそこを捨てた意味も、
ここにいる意味も。
五十嵐の家に行くしかない。
そう思ってコートに手を掛けると同時に、部屋に着信音が響いた。
見知らぬ番号に構えてしまう。
捺「…はい」
凌「先刻は失礼致しました」
捺「凌、か?」
凌「ええ。プライベート用の携帯から電話しています。あちらの携帯だとまた、悠さんが履歴をチェックし兼ねませんから」
捺「ストーカーみたいな奴やな。なんなん、あれ。菜穂は妹やろ、いくら身代わりとは言え。莉依はどうした」
凌「菜穂様はおやすみになりました。…あの人は妹である菜穂様を愛しておいでです。昔も…今も」
捺「…それって」
凌「捺生さん。手を組みませんか?」
捺「は?」
凌「私には目的があります」
…それから聞いたのは。
思いもよらない凌の半生だった。
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