けど、あの夜。
光「…お話とは?五十嵐さん」
「…あなたの妹についてです」
光「?…莉依を知っているんですか?」
「彼女はもう居ない。名前を変えて幸せに暮らしています」
光「どういう…」
「施設に預けられていた彼女をうちで引き取ったんです。何不自由なく、暮らしています」
光「…施設」
「彼女の為にも他言は無用です。…まあ、数ヶ月一緒に居て気づかないのだからさほど関心は無いかもしれませんが」
その時はっきり繋がった。
翔央は莉依で、この人が連れ戻しに来たのは自分の実妹なのだと。
光「…幸せなら何故うちみたいな店に性別を偽っておったんですか」
「ちょっと諍いをね。まあ、大丈夫です。もう解決する話ですからご心配なさらず」
光「…」
「…危険を侵してあなたに何故こんな話をするか分かりますか?彼女の幸せを崩したく無いからです」
光「…幸せ?」
「私の母は彼女の本当の娘だと思っています。…事故で亡くなった、ね」
光「…は?」
「彼女は本来妹の受けるはずだったものを一心に与えられています。…あなたに出てこられたのでは、少し厄介だ」
光「それは本当に、幸せ…?」
「ええ、勿論。…妹さんを愛しているのだったら、金輪際彼女に関わらない事を約束してください」
光「そんな事…」
「あなたには解るはずだ。何が一番、彼女にとって良い選択か」
光「…」
「妹を二度も、人生の奈落の底に突き落としたくはないでしょう?」
光「…自分の事は、自分で考えて決めます」
「大丈夫、あなたなら正しい道を選べますよ」
光「…失礼します」
…何も、言えなかった。
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