【短】夏秘め natsu-hime


その後すぐ、お父さんからお母さんに電話が入った。


「傘がないから駅まで迎えにきてくれ」

と頼まれたらしく、お母さんが出て行くと、あたしと陣はふたりきりになった。



無言のリビング。


サザエさんの声と、冷房の音と

陣がスイカを食べる、シャリシャリという音だけが響く。



「食わんのか?」


陣がボソッと、聞いてきた。


「……」


「食わんのやったら俺がもらうど」


「あっ!」



真ん中の一番おいしいところに手を伸ばす陣に、

「食うわぃ!」

とあたしは叫んで、スイカを確保した。


シャリ、シャリ……とふたり分の音がしばらく響いた。



「うまいやろ」


「……うん」


「礼は?」


「……ありがとう」


「お前が素直やとキショイな」


「陣」


「ん?」


「あたし、拓ちゃんと別れた」