【短】夏秘め natsu-hime


ドアのすき間から、リビングの灯りと、サザエさんの歌がもれている。


なぜか、ホッとしたような

遠くまで旅して帰って来たような、安心した気持ちになった。



無意識にサザエさんを口ずさみながらドアを開けると。



「あら、紗里。起きたんかえ」



お母さんの顔がふり返った。



冷房の匂い。

……に混じって、果物の瑞々しい匂いが漂っている。



「陣くんがスイカ持ってきてくれたんやで。
あんたも食べなぁよ」



お母さんの向かいに、陣が普通に座って、スイカをかじっていた。



「……」


「よぉ。鼻血女」


「はっ!? だ、誰がよ!?」


「お前しかおらんやろ。
鼻血ブ―コ」


「うっさいんじゃ! 
陣のウンコ!」



ええかげんにしぃ!とお母さんに怒られ、あたしは渋々、テーブルの前に腰をおろした。