【短】夏秘め natsu-hime


「……玉木さん。せっかく陣とデートしてたのに、ごめんね」



ううん、と首をふる玉木さん。



「今日はあたしが強引に、陣くんを誘っただけやもん。
ホンマは陣くん、紗里ちゃんと来たかったと思うし」


「……」


「紗里ちゃん。陣くんの顔よぉ、傷だらけやったやろ?」


「うん」


「あれ、紗里ちゃんのためにケンカしたんやで」


「え……?」



驚くあたしに、玉木さんはフフッと笑った。



「こないだの登校日、途中で紗里ちゃん帰ったやん。

あの放課後、みんなが紗里ちゃんの噂で盛り上がってよぉ。
妊娠してるとか、ヤリまくってるとか。

……そしたら陣くんが、その子らに向かって本気で怒ったんよ。
“紗里はそんな女ちゃうわ”って」




陣……。




「ただの幼なじみが、あそこまで怒らんと思うで」



玉木さんの話が終わったのと同時に、拓ちゃんが戻ってきた。


玉木さんは「ほんじゃ、お先に」と言って、帰って行った。