【短】夏秘め natsu-hime


戸惑いがあたしを襲う。

今までの穏やかなキスとは、まるで違ったから。


苦しくて、息ができないくらい。


空から響く連続の花火の音。

高まる熱気。歓声。


頭がぼうっと熱くなって
めまいがして。



あたし、何か……変や。


クラクラする。



……あれ?


これって、もしかして。


また


鼻血の気配?




「た、拓ちゃん、待って…っ」



あたしは両手で力いっぱい、拓ちゃんの体を押し返した。



「紗里」


拓ちゃんの腕があたしを再度つかまえる。


そして押しあてられる唇。



「拓ちゃん……っ」



やだ、やばい。

ホンマに出る。


浴衣で鼻血なんて、女として終わってるよ。


見ないで。


見ないで――…!



「……」



あ、れ……?


あたし、拓ちゃんの腕の中にいたはずなのに。


一瞬にしてあたしの視界は

拓ちゃんじゃない人のTシャツの色で覆われていた。



このTシャツは


この匂いは……



「おんしゃ、それ以上紗里に触ったらシバくぞ」



……この声は。