【短】夏秘め natsu-hime


「紗里が俺のことを一番好きって思ってくれるんやったら、それでええ」


何か決心を固めたような、拓ちゃんの表情……。



「あ、そろそろ花火始まるで。行こら」


「……うん」





夜空を色鮮やかに飾る、打ち上げ花火。


心臓にまで届くような、ドン、という重い音。


そして隣には、優しい彼氏。



この花火が終われば、あたしはたぶん拓ちゃんと一線を超える。


もう後には引き返せないんや……。




――『紗里先輩』




なんでこんなに胸が痛いの?


憧れの恋を手に入れて、幸せなはずやのに。



花火の上がる間隔が短くなり、歓声がさらに大きくなった。


もうフィナーレ。


これが終われば……。



「……拓ちゃんっ」



やっぱりダメや。

あたしは意を決して、隣の拓ちゃんを見上げた。



「あたし、拓ちゃんに内緒にしてたことが――」



だけど言い終わる前に、キスで言葉を封じ込められた。